たのしーと制作者インタビュー「遊びながら学ぼう!」 第12回 体あそび「世界のあそび」監修 東京学芸大学 齋藤貴博さん

2021.10.06

さまざまな遊びを学童向けにアレンジした、放課後たのしーとの「体あそび」で、21年度の新シリーズ「世界のあそび」がスタートしました。世界各地の遊びのセレクトからアレンジまで監修を担当した、東京学芸大学附属竹早中学校教諭 齋藤貴博さんに遊びのポイントを伺います。

写真提供:齋藤さん

世界のあそび」はコチラ

「世界のあそび」は、どういう観点でセレクトしましたか?

子どもの遊びを考える上で、「ドキドキ」「ワクワク」するという感覚はとても大事です。簡単にできても、難しすぎてできなくても面白くなくて、自分と友達、自分と遊び道具との間で「できるかな? できないかな?」というギリギリを楽しめる遊びが盛り上がります。「世界のあそび」も、その点を重視してゲーム性があるものを選びました。さらに遊び方を工夫できるか、他者とコミュニケーションが生まれるか、という観点もポイントになります。

元の遊びに、「狭い室内向き」「広い屋外向き」などの場所の条件があっても、どんなスペースでもできるルールにし、道具も手に入りやすいものにアレンジしています。例えばスウェーデン生まれの「クップ」は、元は「木片に木片を投げて倒す」という外遊びですが、木片をペットボトルに変更し、室内でもできるようにしています。

「ペットボトル クップ」(2022年2月配信予定)

海外の遊びを体験することに、どんな意義がありますか?

そもそも遊びは、昔から日常生活に根ざしたものから生まれていて、海外の遊びも同じです。「カモとハンター」は、ヨーロッパに多くの渡り鳥が飛来し、それを狩猟して食材としていたことが伝統的な生活文化としてあって、そこから遊びに派生したものです。「遊びを通じて世界の文化を知ろう」と、堅苦しく考える必要はありません。遊びが楽しければ、その背景に文化や歴史があることに興味がわいて自ら調べることでしょう。

みんなで一つの遊びをして、「ドキドキ」「ワクワク」するという「空間」を共有できた瞬間に、他者との垣根がなくなり、言葉が通じなくても世界中の人たちと楽しめる可能性を秘めています。グローバル社会になり、多様性の尊重が求められていますが、遊びは自分とは違う価値観を持つ他者とかかわるきっかけになります。いずれ海外の人と交流するとき、この遊び体験がコミュニケーションに役立つならうれしいですね。

「カモとハンター ドッジボール」

「世界のあそび」をするとき、楽しんでほしい点は?

学童で経験した「世界のあそび」を、学校の友達や家族に「こんな遊びを知っている?」「一緒に遊ぼうよ!」と言って広めてほしいですね。そこから、「どこの国の遊び?」「場所はどこ?」なんていう会話が生まれたら、一気に世界が広がります。

そして夢中になれる遊びがあったら、「もっと面白くするにはどうしたらいい?」とアレンジする思考を持ってほしい。まずは、やってみて楽しかったら続ける。つまらなかったらルールや条件を変えてみる。この繰り返しで遊びをどんどんアップデートしてみてください。「その遊びのどこに面白さがあるか」、その本質さえ確保されていれば、場所や道具、人数が変わっても楽しめます。アレンジすることでもっと盛り上がる可能性があるので、学童の条件に合わせて、ぜひ工夫してみてください。

「世界のあそび」の中で、興味を持った遊びはありますか?

ブラジルの遊びを元にした「ペットボトルをとりもどせ!」は、陣取りゲームや鬼ごっこの要素を含んでいてとても面白いですね。相手陣地にある一つの目標物(ペットボトル)をみんなで奪いに行き、自分の陣地まで運ぶことを目指すゲームです。まずペットボトルという「シンボル」的なものが存在し、「ペットボトルを奪って自分の陣地に取り戻す」という「目的」のために、相手に捕まるかもしれないというスリルも味わえます。

ペットボトルを「奪いに行く」「奪われないよう逃げる」「邪魔をする」など複数の課題があり、仲間同士の協力が欠かせません。一目散にペットボトルを持って自分の陣地へ行く子や、相手の邪魔をして仲間を援護する子、相手が攻めてきたら捕まえる子も必要です。みんながペットボトルに群がってしまうとゲームは進まず、つまらなくなります。いろいろな失敗をしたり、工夫したりすることが楽しめるゲームです。ぜひドキドキ、ワクワクを楽しんでください。

「ペットボトルをとりもどせ!」(22年3月配信予定)

小学校のときに経験した遊びは、成長していくなかでどのような影響があるでしょうか?

今の社会は、「将来の役に立つこと」という明確なものが好まれます。大人も子どもも「将来のために」と、無駄な時間(遊び)と睡眠時間を削って、勉強や特定のスポーツ競技に励む人も多いでしょう。でも無駄と思われがちな遊びに、大きな可能性があるんですよ。

遊びには、仲良くない人や、知らない人とでも「目的のために一緒に力を合わせよう」「こうしたらもっと面白い」と既存の価値観にとらわれず、夢中になれる魅力があります。「他者と楽しい空間を共有した」という体験は、中学、高校、社会人と成長するなかで、新しい人間関係が生まれるときの助けになるでしょう。「何かにチャレンジしたい」と思ったときに、他者を巻き込みながら、これまでにはない新しいものを生み出す土台になることと思います。

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(文・構成 米原晶子)


プロフィール 齋藤 貴博(さいとう・たかひろ)

東京学芸大学附属竹早中学校教諭
専科は保健体育科。東京学芸大学大学院 教育学研究科・体育科教育コース修了。専門は、遊びを中心にすえた学校体育やスポーツ、学校教育研究。貧困、不登校などの社会的事象を遊びやスポーツと関連づけて研究。現在は産学官連携の「未来の学校みんなで創ろう。PROJECT」で、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)の技術を体育の授業の実践に落とし込めるか、eスポーツなどスポーツにおけるVR・ARの可能性などを探っている。