たのしーと制作者インタビュー「遊びながら学ぼう!」 第14回 「英語の芽 ABCであそぼう」監修 東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭 木村翔太さん
前回登場の名渕浩司さんと一緒に、「英語の芽 ABC であそぼう」の企画・監修をしている東京学芸大学附属世田谷小学校教諭の木村翔太さんに、たのしーと制作にまつわることや英語への考え方について聞きました。
写真提供:木村翔太さん
子どもたちが興味を持つ英語とは、どういうものでしょうか。
子どもたちにとっては、漫画やアニメに登場するアイテムや技などに使われている身近な英語や、自分の名前を英語で書けるということが、単純に「カッコいい」ことなんだと思います。また、少し学年が上がってくると、英語圏の音楽も子どもをひきつけているようですね。そういう自然に子どもたちの中で生まれる好奇心をきっかけにして、うまく英語への興味を導いていければいいなと思っています。
木村先生はたのしーとの「キナガザルのポレポレ」シリーズでの制作も担当し、身近にある「はてな?」を取り上げました。今回、「英語の芽」で気にかけた点はどこでしょうか。
「英語の芽」は、いろいろな疑問を投げかける「ポレポレ」とは違い、英語というジャンルが大前提にあります。英語は「音」が伴うものなので、そもそもワークシートの形式と相性がよくありません。学童の現場に英語を教える先生がいないことや、音声を届けられないということは、大きなハードルでした。文字で「a」と書いてあっても、それをどう読むのか知らない子どもたちには、その読み方を利用した遊びを楽しむことができません。そこで、子どもたちが日頃親しんでいるカタカナ語から音声が類推できるもの、例えば「バナナ」や「パンダ」などをイラストと一緒に載せるというわかりやすさの工夫を意識しました。
子どもの英語学習で気を付けるべき点や、大人の心構えなどあれば教えてください。
いくら子どもとはいえ、もう十分に日本語のネイティブスピーカーになっています。自分の母語と異なる言語を話すこと自体にハードルがあるのに、大人が横から英語の文法などの理屈を説明したり、いちいち間違いを訂正したりしてしまっては、そのハードルを越える気持ちすらなくしてしまうかもしれません。日本語の文法をきっちり理解していなくても、私たちは日本語を操作できています。それと同じように、英語についても理屈から入るのではなく、「ノリ」で使ってみるのが大切なことではないでしょうか。
また、英語学習に限らず、子どもは大人の背中を見て育つ側面があるでしょう。大人がいくら子どもに対して「こわがらずに話してみよう」と声をかけても、その大人自身が英語アレルギーを持っていては、言葉と裏腹の態度が子どもたちに伝わってしまいます。大人が率先して、「間違ってもいいから話してみよう」という姿勢を示すことが大切だと思います。
ご自身が英語に興味を持たれたきっかけ、また好きな英語の言葉を教えてください。
私自身は、大学生のときに英語がまったくできない状態で英語圏の国に飛び込みました。コミュニケーションに必要だったため、自然と少しずつ覚えていった感じです。最初に興味を持って勉強したわけではないので、話せてもつづりが書けない単語や、使ってはいるけれど文法構造がわかっていないフレーズが今でもたくさんあります。少し英語ができるようになった後に、自分の母語である日本語との表現の違いなどについて「おもしろいなぁ」と感じるようになり、そこから興味がわきましたね。
留学先のカナダ・ハリファクスで、よくコーヒーを飲んだ思い出の時計台(写真提供:木村翔太さん)
お気に入りの言葉はいくつかありますが、そのうちのひとつが「Double-Double(ダブル-ダブル)」です。カナダのハリファクスという町に住んでいたとき、カナダでは有名なティム・ホートンズというコーヒーショップがありました。そこでコーヒーを注文するとき「Double-Double」と言うと、砂糖とミルクが2つずつ入った甘~いコーヒーが出てくるんです。店に通う人にとってそれは共通言語になっていて、その呪文を言うこと自体がなんとなく楽しくて、毎日無駄に甘いコーヒーを町の名物の時計台の下で飲んでいました。写真(上)が、その思い出の場所です。
(文・構成 福留香織)
プロフィール 木村翔太(きむら・しょうた)
東京学芸大学附属世田谷小学校 教諭
東京学芸大学大学院 教育学研究科・体育科教育コース修了。専門は「遊び学」。東京学芸大こども未来研究所学術フェローを兼務。「正しさより面白さ」を教育の現場で実践する。自治体主催の放課後子ども教室や放課後支援員向け講座などの講師も務める。
写真提供:木村翔太さん/生徒と一緒に紙粘土で作った「キムチ(木村先生の愛称)ロボ」