支援員のお悩み相談室 第36回 手を焼く児童に対して、遊ばせないよう靴を隠すなど支援員の行き過ぎた対応に疑問があります。
ある子どもを体育館で遊ばせないようにするために、支援員がその子の体育館シューズを隠したことがありました。子どもはいろいろとやんちゃな子でしたが、結果、学童保育をやめることに。「その子がやめてよかった」と思っている支援員に憤りを感じます。
子どもの尊厳を大切にするとはどういうことか、指導員の倫理感も含めて学び合いを
指導員は子どもにとって“権力者”になりうることを意識して
子どもは本来、やんちゃで元気なのが当たり前。モノの取り合いでケンカしたり、大人の言うことを聞かなかったりするものです。やってみたいことに無我夢中で周りが見えなくなり、相手の気持ちを考えずに行動することも。発達段階や個々の育ちによって、学童保育で見せる姿はさまざまですが、いろいろな失敗や体験をする中で、人として大切にすべきことを学び、社会性の基盤となるものを習得していきます。
その過程の中で子どもの気持ちを聞いたり、代弁したり、整理したりしながら関わることが大切なのです。“大人の言うことを聞く子がよい子”という視点や罰則的な指導は、「自分のことをちゃんと見てもらえていない」と、子どもの不安を大きくさせます。
この事例は、大人の側の力量不足と子どもの権利に関しての不勉強から引き起こされたものです。重ねて放課後児童クラブ運営指針や児童福祉法等にも明記されている学童保育や指導員の役割を十分に理解していないことも原因でしょう。このような行動は、保護者はもちろん、子どもからも信用されないでしょう。そうなれば、子どもが見せる言動はさらにマイナス方向に向かい、指導員はそれを抑え込もうという一方的、短絡的なものになってしまいます。子どもの最善の利益になっていないことは明らかです。
相談の内容から、これらの違和感を職員同士で話し合っていないと推測します。相談者の方が抱える不安や憤りは間違っていません。ですから子どもたちのために、指導員に求められる倫理や子どもの権利について、職員全員でしっかりと確かめ合い、同じ過ちを繰り返さないよう話し合ってみてください。
子どもの気持ちを理解するため、児童記録で振り返りを
職員同士の話し合いと同時に、その子の様子や指導員の関わりをつづる“児童記録”に取り組むことをお勧めします。先ほど述べましたが、子どもは本来、元気でやんちゃなものです。いろいろな失敗もします。そうした際、行動だけが目立つため、子どもたちの心の動きはわかりづらく、周りに理解されづらいものです。「なぜ、そのような行動に出るのか」「子どもが伝えようとしていることは何か」といったことを記録から振り返るのです。
「〇〇と遊んでいたら、突然、邪魔をしてちょっかいを出しはじめた」という客観的な様子だけではなく、その前後や指導員の関わり、声かけの内容、子どもの反応、それを見て指導員がどう感じ、どう関わったかといったことを継続的に記録しましょう。すると、ある指導員の前では甘えていたり、素直になっていたり、また学校や家庭では違う姿を見せていたりと、その子のさまざまな“事実”が見えてくるようになります。
これまでは単なる「ちょっかい」や「トラブル」だと思っていた出来事が、違って見えててくるようになると、子ども自身が変わろうとしている、成長している姿に気づくことができます。心の変化や、指導員が伝え続けたことが届いている事実にも気がつくでしょう。その積み重ねが大事です。
学童保育の役割は、放課後の毎日の生活の場を保障することです。さらに、子どもの生活の場に必要なのは、子どもが何かにつまずいたときに、そばに寄り添ってくれる大人の存在です。そのことを指導員同士で確かめ合いましょう。
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回答者プロフィール飛鳥井 祐貴 (あすかい・ゆうき)
東京都生まれ。東海大学工学部航空宇宙学科卒。玉川大学教育学部卒。
幼児から成年までの水泳・サッカー・幼児教育・野外活動の指導、学習障害(LD)児の学習支援プログラム等に6年間従事。2001年から神奈川県横須賀市の学童クラブに勤務し、現在は施設長を務める。放課後児童支援員認定資格研修、全国学童保育連絡協議会主催の指導員学校ほか、県内外の市町村行政研修や研究集会等で講師を務める。神奈川県学童保育指導員連絡会会長。