支援員のお悩み相談室 第6回 子どものケンカが始まったとき、どう対処すればいいのでしょうか?

回答者:下浦 忠治

2020.02.10

普段は仲良くあそんだり、一緒にふざけたりしている子どもたちが、ささいなことでケンカを始めることがあります。ときには手や足が出てしまうことも。ケンカが起きたとき、支援員はどのタイミングで、どのような関わり方をすればいいのでしょうか?

キーワードは「振り返り」。支援員が子どもと一緒にケンカの状況を振り返ることで、子どもは気持ちを整理できます

 

生活の場でケンカが起こるのはあたりまえ

放課後児童クラブは学校と違って子どもが自由に過ごす生活の場なので、ケンカが起こることは多々あります。例えば、おもちゃや本などを独占したがる子がいて貸してくれないとか、遊んでいるおもちゃを横取りされたとか。最初はふざけてちょっかいを出していただけなのが、だんだんエスカレートして子どもっぽいいさかいになったり、ルールを無視した子に、まじめな子が正義感で注意して「うっせーなー」とケンカになったりすることも。ささいなことからケンカになるのは日常茶飯事です。しかし、ケンカをするからには、お互いにそれぞれの強い言い分があるのです。

ケンカをした相手の子に自分の言葉で言い分を伝える

子ども同士が激しい言い合いやつかみ合いになった時点で、支援員は2人の間に割って入ります。第1段階は、それぞれの子どもの思いや言い分を聞いてあげることからスタートします。やった方からも、やられた方からも、双方の話を聞くことが大事です。だいたいケンカは相手に対して気に入らないことがあって起こるもので、両方に原因がある場合が多く、片方が一方的に悪いことは少ないと思います。

ケンカがエスカレートして蹴る、殴るという暴力的な行為が伴う場合、つい手を出した方を一方的に叱ってしまいがちですが、やったほうは手足を出してしまうほど悔しく、腹が立つ感情を持っていて、やられたほうが怒らせる言動をした可能性もあります。手足を出した子がなぜそういう感情になったのか、「何があったの?」「何が嫌だったの?」と中立の立場で声をかけ、その子を怒らせた原因は何だったのかを聞き取ります。子どもたちは、大人である支援員に聞いてもらうことで気持ちが落ち着く部分があります。また、自分の言葉で話すことで感情の整理がつきます。

第2段階は、ケンカをした相手の子に、大人を介さず自分の言葉で言い分を伝えさせます。その2人のやりとりを聞いたうえで、支援員も一緒になぜケンカになったのかを振り返ります。子どもたちは振り返りのなかで相手の感情を汲み取ることができるようになり、少しずつ納得してわだかまりが消えていきます。

 

ケンカを解決するためのキーワードは、「振り返り」です。何が原因で、どうしてこうなったのかを冷静になって考えてみると、「一緒に使えばよかったんじゃないか」「言い方が悪かったかも」「感情がすれ違っていただけ」などの考えや意見が出てきます。感情を爆発させたからこそ自分の思いを表現することができ、いざこざがあった相手の感情も想像できるのです。ケンカのなかには学びがたくさんあります。

振り返ることで仲直りできることが大半ですが、なかには感情がこじれて、すぐにはなかなか仲直りできない場合もあります。そんなときは、表面的に仲直りさせる必要はないと思います。子どもに謝らせることが大事なのではありません。その場ではいったんケンカを休戦するにとどめて、その後の子どもたちのようすを注意深く見守っていきましょう。たいがいケンカしたことによって気持ちが発散されて、時間がたつと自然と一緒に遊び始めるケースが多いようです。

ところで、ケンカが起こりやすいタイミングを考えたことはありますか? 支援員のみなさんも感じていることだと思いますが、子どもたちみんながあそびに集中しているときにはいさかいは起きません。子どもが暇にしているとき、ほかの子があそんでいるのに自分はあそびが終わったときなどにケンカが起こりがちです。そう思うと、子どもたちがあそびや学びに集中できるような配慮ができれば、ケンカを減らせるかもしれませんね。


(文・構成 生島典子)

★「支援員のお悩み相談室」で聞きたいことを大募集!★
子育て支援の専門家がおこたえします。コラムへのご意見、ご感想もお寄せください。
・支援員の方はこちら
・保護者の方はこちら

下浦 忠治

回答者プロフィール下浦 忠治 (しもうら・ちゅうじ)

1950年、奈良県生まれ。74年から東京都品川区で35年間、指導員として学童保育に携わる。2009年に退職。日本社会事業大学専門職大学院で「学童保育とソーシャルワーク」を開講。15年まで社会福祉士として東京都の児童相談所に勤務。現在は、東京成徳大学子ども学部で非常勤講師を務める。1都7県で放課後児童支援員認定資格研修の講師も担当。著書に『どの子も笑顔で居られるために 学童保育と家族支援』(高文研)、『放課後の居場所を考える』(岩波ブックレット)など。