支援員のお悩み相談室 第13回 文房具など子どもの持ち物が学童でなくなった場合、どう対処すればいいでしょうか?

回答者:下浦 忠治

2020.08.13

最近、消しゴムやえんぴつなど、子どもの持ち物が学童でなくなるということが数回起こりました。他の子が盗んだ可能性を考えると、どのように対処すればいいか悩んでしまいます。

ものがなくなっても、「犯人捜しをしないこと」が鉄則です。子どもとの信頼関係を壊すような言動はせず、二次被害が起きないように注意しましょう。

 

 

まず、ものがなくなったという事実を伝えましょう

学童保育(放課後児童クラブ)のなかで、子どもの持ち物や学童の備品がなくなる事態が発生することはしばしばあります。そのとき、どうしても「誰かが盗んだのではないか」と思いがちですが、支援員は絶対に犯人捜しをしてはいけません。私はそれを鉄則としていました。

ものがなくなった場合、次のような手順で対処します。

① 「○○くんの青いえんぴつがなくなった」「学童の○○がなくなった」というように、子どもたちにものがなくなった事実をそのまま伝える。
② 「えんぴつがないと、○○くんは宿題ができないね」など、それがなくなると、誰がどう困るのか、何ができなくなるのかを話す。
③ 「間違って自分のところに紛れ込んでいるかもしれないから、確かめてね」と、子どもたちに確認を促す。
④ 同時に「支援員がみんなのカバンの中を見ることはない」ことを伝える。

もしかしたら別のところに紛れている可能性もありますし、いつも生活を共にしている支援員に疑われる経験を子どもにさせてはいけません。なくなったものを捜すよりも、子どもとの信頼関係を壊さないことのほうが大事です。

間違って持ち去らない工夫、盗みの機会を与えない工夫

以前、私が勤務していた学童では、子どもたちは児童見守りシステムの機器を首からぶら下げて学校に来ていました。学童に来るとそれを外して自分の棚に入れるのですが、どれも同じデザインなので、よく違う人のところに紛れ込んでしまいます。

いっせいに購入したものや文房具など、みんなが似たようなものを持っている場合は、紛失させないために大人の配慮が必要です。名前をつける、しまう場所を決める、整理整頓の仕方を教えるなど、人のものと自分のものを間違えない工夫を考えましょう。また、子どもを学童の部屋にひとりにしない、個人の持ち物は出しっぱなしにしないなど、盗みの機会を与えない工夫も心がけましょう。

大人がやりがちなのが、「みんな筆箱(あるいはカバン)を机の上に出して。中身を全部出して、なくなったものが紛れ込んでいないか、ちゃんと見て」などと促し、なくなったものを捜し出すこと。

なくなったものは出てくるかもしれませんが、誰が持っていたのかみんなにさらされることになり、こうした犯人捜しは二次被害をもたらす可能性があります。持っていた子がいじめられたり、いづらくなって学童に来られなくなったりする場合もあるのです。

 


ていねいなケアが必要なのは、盗んだほうの子ども

私の経験からは、文房具類は「盗み」というより「借りたものをうっかり持ち帰る」ということが多いようです。ですが、関わっているのが同一人物で、立て続けにとなると、その子の人間関係に着目します。子どもの中には、セルフコントロールが効かない子もいて、ほしいと思ったものを自分のものにしてしまうというケースがあるのです。

もし、盗んだ子がわかった場合は、「人のものを盗むのは、その人が困るからダメだよね」と、してはいけない行為であることを繰り返しきちんと伝え、盗まれた子には「名前を書いておこうね」「出しっぱなしはやめようね」など、今後、ものが紛れないような工夫を改めて促します。

ものがなくなったとき、盗まれた子どもがかわいそうで、盗んだ子どもがとんでもなく悪い、という視点で見がちです。「放置すれば犯罪者になってしまうかも」と、支援員が厳しく善悪を説いてしまうことも。ですが、盗んだ子どもにこそ、ていねいなケアが必要です。子どもはいつも「自分を認めてほしい」「自分を見てほしい」という気持ちが強く、論理的な判断や社会的な視点は後回しです。「かっこいいものを持っている自分」を認めてほしかったり、うらやましいと思う気持ちが抑えきれなかったりして他人のものを盗んでしまうのです。

その子が心に抱えている寂しさや、満たされない気持ちがそうさせていることもあるため、盗む動機を聞いても、本人もよくわかっていない場合があります。支援員がその子を認めてあげながら、心にマイナスの感情を抱えていないか、注意して見守るように心がけましょう。

繰り返し盗んでしまう場合は、子どもの行為を保護者に伝えることもあります。その際には、本人とどのような話をしたかも伝え、「これからも気になるところがあれば、一緒に見守っていきましょう」という言葉を添えたいところです。

(文・構成 生島典子)

 

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下浦 忠治

回答者プロフィール下浦 忠治 (しもうら・ちゅうじ)

1950年、奈良県生まれ。74年から東京都品川区で35年間、指導員として学童保育に携わる。2009年に退職。日本社会事業大学専門職大学院で「学童保育とソーシャルワーク」を開講。15年まで社会福祉士として東京都の児童相談所に勤務。現在は、東京成徳大学子ども学部で非常勤講師を務める。1都7県で放課後児童支援員認定資格研修の講師も担当。著書に『どの子も笑顔で居られるために 学童保育と家族支援』(高文研)、『放課後の居場所を考える』(岩波ブックレット)など。