たのしーと制作者インタビュー「遊びながら学ぼう!」 第5回 造形作家・イラストレーター はら こうへい さん

2020.09.30

「表現あそび」で「工作」の企画・制作を担当しているのは、造形作家でイラストレーターとしても活躍する、はらこうへいさん。さまざまな子ども向け工作の造形を手がけています。「たのしーと」制作の裏側と、「A4サイズ1枚」に込めた思いを聞きました。


写真提供:はらこうへいさん

1枚のシートが立体的な作品になるなど、毎回あっと驚く工作ばかりです。
どのようなことに注力して制作していますか?

小学校の低学年にとって「簡単すぎず、難しすぎない」「不器用な子も、器用な子も取り組める」工作を心がけています。作ったら終わりではなく、新しいルールを考えたり、おもしろくカスタマイズしたり、同じ工作でも年齢によっていろいろな遊び方が生まれることが理想です。「さあ、コレでキミはどう遊ぶ?」。毎回、子どもたちに挑戦する気持ちで制作しているんですよ。

制作の裏側も紹介しましょう。最初は「A4サイズ」という制約を全く無視して、コピー用紙を適当な大きさに切ったり貼ったりしながら、感覚だけで試作品を作ります。何十回と失敗を繰り返しますが、最終的に初めの試作品を改良することが多いですね。

実はこの段階が一番楽しく、僕の中で工作は「完成」しています。でも、この「たのしーと」には作り方のイラストなどを「A4サイズにすべて収める」という高いハードルがあります(笑)。試作品をバラバラに分解して、ムダを省いて最小限の構造に収まるように、パソコンの「フォトショップ」というデザインソフトを駆使して図面化していきます。


はらさんが制作した工作


工作に取り組んでいるとき、間違えて切ってしまったり、うまくできなかったりする子に、どのようなアドバイスをするといいですか?

はさみの使い方など、技術的なことで思い通りにできないようなときは、すぐに指導をしてください。間違えて切ってしまっても、「セロハンテープで貼れば大丈夫だよ」と補修のアドバイスをするといいですね。

自由な表現力を求めるお絵かきなどの場合、すぐに描ける子とずっと悩み続ける子がいると思います。でも大いに悩んで、悩むこと自体を楽しんでもらいたいです。どうしても描けない子には「興味があるモノは?」「好きな食べ物は?」など、ちょっとしたヒントを出すだけで、一気にイメージが加速することもあります。

工作は失敗の連続です。うまくできなくてもすぐにあきらめず、対処方法を考え、仕組みを理解して辛抱強く作り続けることは、きっといろいろな場面でも生かせるでしょう。

子どもが工作を完成させたとき、
支援員や大人はどのように接するといいでしょうか?

完成した作品をよ〜く見て、マイクを持つジェスチャーをしながら、子どもにいろいろな質問をしてみてください。例えば作品の中に子どもが描いた小さな黒い点があったとします。実はこの小さな黒い点にはすごく重要な意味があるかもしれません。もし何の意味もなかったとしても、聞かれたことにより後付けでイメージが膨らむこともあります。

工作に正解はありませんし、大人が見ている絵や工作は、子どもの世界の氷山の一角です。もし最終的に完成写真と全く違う作品になっても、おもしろいところを見つけて褒めてあげてください。見本通りにちゃんと作る子、全然作らない子、どちらでも構いません。その子らしさが表現されていればいいのです。

はらさんの創作のアイデアの源は?

工作のワークショップで子どもからよく聞かれる質問です(笑)。「キミも欲しいオモチャって山ほどあるでしょ? 僕も自分が欲しいモノを作っているんだよ」と答えます。

僕は日常の中で、その時々で自分が欲しいモノ、自分が遊びたいモノを作品にしてきました。例えばテレビでラグビー観戦をしたらラグビーボールが欲しくなって、牛乳パックでラグビーボールを作りました(笑)。そのときに作れなくても欲望はずっと消えないでどんどんたまっていきます。僕の「欲しいモノ」はこの先もきっと尽きないと思います。

工作を通して、子どもたちにどのような経験をしてほしいですか?

工作でたくさんの「発見」をしてもらいたいです。ごっこ遊びで役になりきったときに、とっさに出てしまった自分の変な声。初めて知った友達の大好きなモノ。自分の世界を他の人に共有してもらう喜び。支援員や家族も、完成した作品からその子の内面や意外性などを「発見」してほしいですね。

試行錯誤する工作スキルは、工作の回数を重ねることでどんどん向上していきます。このスキルは大人になってからも、新しいことを生み出す原動力になると信じています。僕自身も試行錯誤しながら「たのしーと」を作っています。試行錯誤のおもしろさを、この「たのしーと」を通して子どもたちに感じてもらえればうれしいです。

(文・構成 米原晶子)


はらさんが制作した「表現あそび」の「工作」はコチラ

プロフィール はら こうへい

武蔵野美術大学短期大学部 グラフィックデザイン科卒業。造形作家、イラストレーターとして活動。NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」の「すりかえかめん」イラスト、「ノージーのひらめき工房」の造形監修(工作アイデア&工作制作)、「ピタゴラスイッチ」の「ピタゴラ装置(玉が転がるコーナー)」造形協力など、子ども向け番組で多くの造形に関わる。著書に『いたずらどろぼうチョキッペをさがせ!』(PHP研究所)、『すりかえかめんミステリーツアー』(河出書房新社)など。