支援員のお悩み相談室 第17回 日頃からイライラしていて、攻撃的な子どもがいます。友達とトラブルが起きたときどう対処すればいいでしょうか?

回答者:河野伸枝

2020.12.17

いつもイライラして落ち着きがない様子で、毎日のように友達をいじめたり暴力をふるったりする子がいます。支援員が注意するだけでは解決できません。どのように接すればいいのでしょうか?

頭ごなしに叱るのは逆効果。イライラをいったん受け止め、その子を受け入れる姿勢を見せましょう

 

ダメだとわかっていても、感情をコントロールできない

いまの子どもたちは、パンクしそうなくらいイライラを抱えています。家庭の問題や学校での友達関係で痛みや苦しさを抱えている子どもがイライラして、ささいなことで友達にあたってしまったり、怒りをぶつけてしまったりすることは、学童保育(放課後児童クラブ)の現場でも少なからずあるトラブルです。そんなとき「そんなことしちゃダメじゃない!」と頭ごなしに叱るのは逆効果です。

イライラしている子はトラブルも多く、普段から「ダメな子」のレッテルを貼られ、怒られてばかりです。否定されることにうんざりしているので、本能的に、相手が自分を受け入れてくれる人かそうでないかを即座に察知します。本当は「いい関係をつくりたい」とこちらが思っていても、注意するだけでは、「この人にはわかってもらえない!」と心を開かず、逆に挑発的なことを仕掛けてくることになるでしょう。

私が勤務する学童にも、すぐに友達とケンカをしてしまうAくんがいました。私は、Aくんが友達とトラブルを起こしたときには、「Aくん、どうしたの?」と、なるべく刺激しないよう声をかけるようにしていました。しばらく時間がたつと興奮が収まります。そして友達にあたってしまった理由をAくんが話し始めたら、「そうかそうか、Aくんは、こうしたいだけだったんだね。でもできなかったからイライラしてしまったんだ」と、いったんAくんの気持ちを引き取ってあげます。

それから、「でも、自分がしたいことができなくても、人の物を壊したり、暴力をふるったりしてはいけないと思うよ」と諭します。Aくんは、「そんなことはわかっている。でも、我慢できなかったんだ」などと言っていましたが、そこでもまた「そうかそうか、わかっていても我慢できなかったんだ」と受け止めてあげましょう。

子どもが受け止めてもらえたことの安心を得て、落ち着きを取り戻したタイミングで「人の物を壊したり、暴力をふるったりではなく、相手にどういう言葉で言えば伝わるのか」を子どもと一緒に考えます。

Aくんは、今は相手に自分の気持ちを言葉で伝えることや、受け止めてもらえる人に自分の気持ちを伝えることで、物にあたったり、暴力をふるったりする行為はなくなりました。

子どもは、頭ではわかっていても感情をコントロールできないことがあります。そんなときは、注意するだけでは改善しません。注意や罰するだけの関わりからは信頼関係が生まれないため、イライラのトラブルは繰り返し起こるのです。

 

イライラは、子どもたちのSOS

支援員の目を盗むように、自分より弱い子に暴力をふるったり、いやがらせをしたりするのがBくんでした。「オレのストレス解消は、人をいじめることだ」と言い放ち、自分のなかに抱えたイラ立ちを抑えられませんでした。Bくんには、「人を傷つけるようなことをしたらダメだよ」という言葉が通じません。「この子のストレスを何とかしないと、この子は友達をいじめ続けるし、この子も苦しみ続ける」と思い、私はBくんに、「今度、友達をいじめたくなったら、コーノ(私のこと)を呼びな」と伝えました。

それからは毎日、「コーノ」「コーノ」と呼ばれるようになりました。そのたびにそばに行き、Bくんが言うことをどんなことも否定せずに聞き続けました。そうすると、次第に愚痴をこぼしてくれるようになり、やがていじめでストレスを解消することはなくなりました。

いじめや相手を傷つける行為に走ってしまう子は、自分自身も傷ついていることが少なくありません。イライラしているのは、子どもたちが救いを求めているSOSで、そこには、「自分も大事にされたい」というメッセージが含まれています。「ちゃんと聞いてもらえる人」に話して、「そうか」「わかる」「そうだよね」と、イライラする気持ちをいったん引き取ってもらいたいのです。

大事なのは、支援員のほうから子どもを理解しようとする態度や姿勢を示すこと。すべての人が長所も短所も持って生きています。子どものまだ見えていない、きらりと光る別の一面を探そうという姿勢で関わっていきたいですね。


(文・構成 生島典子)

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河野伸枝

回答者プロフィール河野伸枝  (こうの・のぶえ)

1959 年、鹿児島県生まれ。幼稚園教諭を経て、90 年に埼玉県原市場学童保育の支援員となる。支援員歴は30 年。これまでに、全国学童保育連絡協議会の副会長、埼玉県学童保育連絡協議会の副会長などを歴任。現在は、一般社団法人飯能市学童クラブの会の理事を務める。2015 年から始まった放課後児童支援員認定資格研修の講師も担当。著書に、『わたしは学童保育指導員―子どもの心に寄り添い、働く親を支えて』(高文研)、『子どもも親もつなぐ学童保育クラブ通信』(高文研)など。