支援員のお悩み相談室 第18回 年度末に学童を卒所する子どもたちへ、どんな言葉をかけたらいいのでしょうか?
これまで放課後の生活を共にしてきた子どもたちが卒所(学童を終える)の時期を迎えます。さみしい気持ちもありますが、どんな言葉をかけてあげればいいでしょうか?
一人ひとりに入所したころのエピソードを伝えながら成長を確かめ合い、学童で学んだ「人とのつながり」の大切さを伝えます。
3月の「送る会」でメッセージを伝える
私が勤務している学童保育(放課後児童クラブ)は、1年生から6年生まで在籍しています。わが子のように6年間一緒に過ごした子どもたちが巣立つことを考えると、年明けから切なくなります。
その頃から、それぞれの子の思い出をたぐりよせ、卒所時にどのようなメッセージを伝えるかを考え始めます。毎年3月に行われる「送る会」では、一人ひとりに入所したころのエピソードなどを伝え、それぞれの成長を確かめ合う時間を持つようにしているからです。どのようなメッセージを伝えているか、私が関わった子どもたちの例をご紹介します。
1年生の入所時に泣き叫んでいたYくん
Yくんは、新入生の4月1日になかなかお母さんの元を離れられず、ずっと泣き叫んでいました。やっと泣きやんだと思ったら、「明日は絶対に学童に来ないから」と宣言。私は「わかりました」と言って、「今日はお兄ちゃんが迎えに来るまで遊んでいようか」と促しました。遊び始めたら夢中になって、「明日も来るから」と帰っていきました。
そんなYくんは学童に慣れても支援員に反発して困らせたり、脱走して支援員が追いかけてくるのを待っていたりすることもありましたが、とてもがんばりやでした。「あなたは本当にがんばりやだった。おばあちゃんの介護をしながら1人で働くお母さんを支えてきたのはあなただし、あなたのおかげでお母さんもがんばれたと思う。私たちはYくんのことをずっと応援していくよ」と、一番いいところを伝えて送り出しました。
納得がいかないことには一歩も引かないEくん
Eくんは、自分が納得いかないことに関しては、一歩も引かない子でした。納得いかないことがあると、学校では学級崩壊の中心人物になるくらい暴れ、学童で支援員にひどい言葉を浴びせることもありました。
でも徐々に嫌なことでもしっかり向き合い、自分が納得できたら潔く引き下がれるようになりました。「その頼もしさと優しさに年下の子たちから信頼を寄せられていたね。今までのあなたの経験が、『自分がどう生きたいか』に必ずつながっていくはずだから、自分を信じなさい」と伝えました。
引っ込み思案から慕われる存在になったMちゃん
入所したころは自分の気持ちを出せずにいたMちゃん。みんなが遊ぶ輪に入れずに離れた場所でモジモジしているばかりで、支援員が気づいてみんなの輪の中に入れるような子でした。
ところが、高学年になるにつれてMちゃんのほんわかした雰囲気に安心するのか、小さな子は彼女に抱っこされたがり、あっちこっちで遊びに誘われるなど引っ張りだこの存在になりました。「学童で下級生に慕われる経験をしたことがあなたの自信につながったでしょう。ここには、あなたが妹みたいに大事にしてきた人たちがいてずっとつながっているから、何かあったときは戻っておいで」と伝えました。
学童での豊かな人間関係を誇りにしてほしい
「送る会」では言葉だけでなく、支援員や下級生がメッセージを書いて贈ります。ある1年生はEくんに「いつも遊んでくれてありがとう。中学生になってもずっと好きだよ」と手紙を書きました。年下の子に慕われる姿が、自分の目標になった5年生の子は、「Eくんみたいになりたいから、オレも6年生になったら生まれ変わる」と伝えていました。
卒所する子どもたちからも「ケンカもしたけど学童で過ごせてよかった」「困ったときにいつも助けてくれてありがとう」といった声をもらいます。40歳近いOBの1人が遊びにきて、「卒所のときのメッセージをまだ家に飾ってある」と言っていました。いろんなものを捨てたのに、それは捨てられないそうです。
支援員や友達の保護者、年齢の違う子どもたちと人間関係を築けるのが学童のよさです。「豊かな人間関係を誇りにしてほしい」というのが放課後を共に過ごした学童からのエールであり、メッセージです。それを伝えてから手を離さないといけません。人数が多い学童だと、卒所の準備は大変かもしれませんが、ひと言でも子どもたちにポジティブなメッセージを伝えてほしいと思います。
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回答者プロフィール河野伸枝 (こうの・のぶえ)
1959 年、鹿児島県生まれ。幼稚園教諭を経て、90 年に埼玉県原市場学童保育の支援員となる。支援員歴は30 年。これまでに、全国学童保育連絡協議会の副会長、埼玉県学童保育連絡協議会の副会長などを歴任。現在は、一般社団法人飯能市学童クラブの会の理事を務める。2015 年から始まった放課後児童支援員認定資格研修の講師も担当。著書に、『わたしは学童保育指導員―子どもの心に寄り添い、働く親を支えて』(高文研)、『子どもも親もつなぐ学童保育クラブ通信』(高文研)など。